HIVもAIDSも聞いたことのある人は多いと思います。ですが、どちらも病気に関する言葉ということは知っていても、具体的な違いはご存知ですか。似たような言葉だと思っているかもしれませんが、実は結構違った意味の言葉なんですよ。
『HIV』
- 意味:ヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus)のこと。免疫関連の細胞に感染するウイルス。
- 使い方:HIVに感染する
HIVとは、ヒトの身体をカビやウイルスから守るために重要な、Tリンパ球、マクロファージなどに感染するウイルスのことです。
1983年にフランスのパスツール研究所で発見されました。エイズウイルスと呼ばれることもあります。感染源は、血液、精液、膣分泌液、母乳などです。感染するとこれらに多く分泌されます。そのため感染経路は性的感染、すなわち性行為による感染が最も多くなっています。他にも血液感染や母子感染があります。
HIVに感染するとAIDSを発症することがあります。感染した時点ではAIDSを発症したことにはならないのに注意が必要です。もとは霊長類に感染するサル免疫不全ウイルス(SIV)が突然変異によって人間への感染を可能にしたものと考えられています。
ウイルスとは、ほかの生物の細胞を利用することで、自身を複製させ数を増やすことができる非常に小さなものです。タンパク質の核とその内部の核酸からなる構造をしており、細胞を持たないので非生物とされることもあります。ウイルスは細胞を持つ生き物とは明らかに異なる分子的構成をしているのです。
『AIDS』
- 意味:後天性免疫不全症候群(Acuired Immune Deficiency Syndrome)のこと。HIVによって引き起こされる病気。
- 使い方:AIDSを発症する
AIDSは、HIVに感染し免疫力を奪われることで様々な病原体に感染してしまうことで、様々な病気を発症してしまった状態のことです。HIVに感染することで発症する代表的な疾患が23個あり、それらを発症した時点でAIDSと診断されます。
感染してから発症まではしばらくかかります。感染時から、感染初期、無症候期、エイズ発症器の経過をたどり、徐々に発症に近づいていきます。感染初期では免疫細胞を攻撃されているので、感染者は発熱などインフルエンザのような症状がみられることがあります。この時点では、感染者の免疫により数週間で治まります。
このあと自覚症状のない無症候期が続き、のちに発症するのです。無症候期は人によって数年から10年以上と場合によって異なります。感染してからウイルスは毎日急激に増殖し、免疫細胞は次々と死滅していってしまいます。ある程度免疫細胞が死滅してしまうと、免疫不全状態となってしまうのです。
『HIV』と『AIDS』の使い分け例
これらの言葉を使い分ける例を一言でいうと、『HIVに感染することで、AIDSを発症する』です。
HIVは免疫細胞を攻撃するウイルス、AIDSは免疫力低下に伴う様々な疾患を発症した状態です。HIVはヒト免疫不全ウイルスですので、名前のままウイルスのことです。AIDSは後天性免疫不全症候群、要するに症候群なので、いくつかの症状が同時に現れる病気を指します。
HIVも病名のように扱われがちですが、『HIVを発症する』は間違いで、正しくは『HIVに感染する』になります。
そして、HIVに感染した人はAIDS患者ではありません。AIDSの症状がでることでAIDS患者になります。そのため、HIVに感染しても抗HIV薬などを投与することでAIDSの発症を抑えることもできます。HIVに感染してしまうと、完治はできませんが症状の悪化を食い止めることはできるのです。AIDSが発症してしまうと、著しく免疫力に差が出てしまうことが多いので早期発見・早期治療が重要です。
ちなみに、HIVウイルスは水や空気に触れると感染力を失う非常に弱いウイルスですので、空気感染や飛沫感染はありません。日常生活で感染することはないのでその点も誤解のないようにしてください。
まとめ
両者の違いは分かっていただけましたか。
- HIV:免疫力を失わせるウイルス
- AIDS:HIVによって様々な疾患を発症している状態
以上のことが分かっていれば誤用することもなくなると思います。AIDSの感染者は日本でも年々増加傾向です。正しい知識をもって注意しておきましょう。