損傷部分が数センチ位のものを『傷』といい、『怪我』はそれよりも大きい部分を損なったり筋肉や骨まで被害が達したりする場合に使う、と考えている人が多いのではないでしょうか。しかし本当にそうなのでしょうか。ここでは『傷』と『怪我』の意味の違いを解説していきます。
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『傷』
『傷』には5つの意味があります。1つ目は「切ったり打ったり突いたりして、皮膚や筋肉が裂ける、または破れた部分」という意味で、「深い―を負った」などの使い方をします。2つ目は「物の表面が欠けたり裂けたりした部分」のことで、使い方は「鞄に―が付く」などです。
そして3つ目には「人の行為や性質、容姿や物事の不完全なところ/欠点」の意味があり、「時間にルーズなのが玉に―」などの使い方をします。4つ目は「汚点/不名誉なこと」の意味で、「プライドが―付く」などで使います。この使い方は昔からあり、源氏物語や平家物語の中でも見られます。
そして5つ目の意味は「心が受けた―」で、使い方は「失恋旅行をして―を癒す」などです。どの意味も日常的に広く使われていることが分かりますが、『怪我』と混同されるのは1つ目の意味でしょう。
それから、『傷』の語源とされるのは「切擦(きりすり)」や「切り裂く」が変化したという説や、「刻む」と語源が同じという説があります。また「切瘡(きるかさ)」が短縮して「きさ」となり、さらに変化したという説など多々ありますが、はっきりとしたことは分かっていません。
『怪我』
『怪我』には3つの意味があります。1つ目は「不注意によって、もしくは不測の事態によって体を傷つけること/また、その傷のこと」とあります。使い方は「腕を―する」などです。2つ目は「過失や欠点」のことで、「―の功名」「―負け」などの使い方をします。
そして3つ目は「偶然/予想外の事態」という意味です。1つ目の意味が『傷』の意味を示していますが、『傷』を負う前に予測していなかった事態が起こったという過程が挟まれていることが分かります。ですから、本来「思いもよらなかった」「うっかり」などの意味が含まれているのです。「怪我してしまった」とは言っても、「傷してしまった」とは言いませんよね。
それから、『怪我』と漢字で書かれるのは当て字であり、語源は「穢る(けがる)」「穢れる(けがれる)」ではないかというのが有力です。そして元々は2つ目の「過失や欠点」という意味で使われてきた言葉が、失敗などによって体を傷付けることや、その傷自体を指す言葉として定着したと考えられています。
『傷』と『怪我』の使い分け例
『傷』と『怪我』ではどういった使い分けがされているのかを見ていきましょう。
『怪我』の場合では、「愛知県名古屋市に住む33歳の自称無職の男性が、今日愛知県警に出頭しました。男性は昨日の夜、“酒を飲みすぎて隣に座っていた男性を殴って『怪我』を負わせてしまった”と自供しているようです。」などの使い方をします。過失によって『怪我』させてしまったという意味ですね。
それから「昨晩台風14号が沖縄県を直撃し、4名の『怪我』人が出て、現在病院で治療中とのことです。」や、「足首の『怪我』の治療をしに病院へ行ってくるよ。」なども不測の事態で『傷』を負ったパターンです。ですから、災害や事故、事件などで使われることが多い単語となるでしょう。
一方『傷』では「ヒザの擦り『傷』は洗って砂などを流しましょう。」や「顔にできた『傷』は痕が残るかもしれない。」などの使い方をします。また『傷』そのものを意味する単語には「傷病」「外傷」「重傷」「凍傷」「負傷」などがあり、その延長で傷を付けるなどの意味が含まれる単語に「殺傷」「損傷」「中傷」などがあります。
まとめ
『傷』と『怪我』の意味の違いと使い分け方法を説明しましたが、分かりましたか?
『傷』は傷そのものを指しますが、『怪我』は不測の事態によって傷を負ったという意味があるのですね。ですから傷付いた部分が小さいものが『傷』で、大きなものが『怪我』ということではありません。