ニュースを見ていると「代議士」と「国会議員」という言葉を耳にすることがあると思います。「それって同じじゃないの?」と思う方もいるかもしれませんが、厳密には指しているものが異なります。何が違うのでしょうか。
『代議士』
代議士とは一言で言えば、衆議院議員のことを指します。現在の衆議院の定数は475人ですから、議員辞職などによる空席がなければ、日本には通常、475人いることになります。
では、なぜ衆議院議員のことをこう呼ぶのでしょうか。それは、代議士という言葉を分解し、それぞれの漢字の意味を考えれば理解できます。「代」わりに「議」論する人という意味になりますね。誰に代わって議論するのかはお分かりですね。そう、みなさん国民です。
日本は民主主義国家です。憲法によって主権が国民にあることが定められています。国のことは国民同士が話し合って決めることになりますが、1億人を超える日本人が全員1か所に集まって議論するのは現実には無理ですし、話もまとまりません。そこで、国民が選挙で代表者を選び、国民の代わりに議論してもらうことにしたのです。国民は代表者を通じて、国の政策決定に間接的に関与しますので、これを間接民主主義と言います。
代議士である衆議院議員は、民主主義を支える大切な役割を担っているのです。
『国会議員』
では、国会議員は何を指すのでしょうか。
まずは国会の仕組みについて説明しましょう。国会は国民の代表が国の政策について議論する機関で、衆議院と参議院という二つの組織に分かれています。これを二院制と呼びます。それぞれ別々の選挙で選ばれているため、メンバーは異なります。衆議院議員と参議院議員をまとめて国会議員と呼びます。
衆議院と参議院では役割も異なります。衆議院は参議院に比べて任期が短く、解散というものがあります。つまり、直近の国民の意志を国の政策決定に反映することができるのです。このため、参議院に比べて強い権限を持っています。一方、参議院は任期が長いのでじっくりと腰を落ち着けて政策を議論し、衆議院の誤りを正す役割を求められています。
ここまで読んだ方は疑問を抱かれると思います。「参議院議員も選挙で選ばれているのだから、衆議院議員と同じ代議士なのではないか」と。そうなのです。それでも衆議院議員だけを代議士と呼ぶのは、実は戦前の名残なのです。
戦前も日本の国会は二院制を敷いていましたが、参議院はなく、代わりに貴族院というものがありました。貴族院は選挙ではなく、皇族や各地の名士らが議員を務めていました。このため、国民に選挙によって選ばれる衆議院の議員だけが、特に「代議士」と呼ばれたのです。
戦後は貴族院の代わりに参議院が置かれ、選挙で選ばれるようになりましたが、衆議院議員だけを代議士と呼ぶ慣習が残ったのです。
『代議士』と『国会議員』の使い分け例
ここまでの議論を一度整理しましょう。
国会には衆議院と参議院という二つの組織があります。いずれの議員も国民の選挙で選ばれているので、国民の代わりに国の政策を議論する人という点では変わりません。しかし、戦前は衆議院議員だけを選挙で選んでいたので、その名残で衆議院議員だけを代議士を呼ぶことになっています。
このため、式典などで国会議員を紹介する場合は注意が必要です。衆議院議員の場合は「代議士が駆けつけてくれました」と紹介することができますが、参議院議員の場合はこのような表現を使うと誤りになってしまいます。使い分けに自信がない場合は、「衆議院議員が来てくれました」「参議院議員がお見えになりました」などと紹介し、代議士という表現は避けましょう。
ちなみに、日本には国会だけでなく、都道府県や区市町村の政策について議論する都道府県議会や市区町村議会があります。これらの議会の議員も選挙で選ばれているので、住民に代わって議論する代議士と呼べそうなものですが、代議士という表現は国に限った言い回しのようです。
まとめ
国会議員には衆議院議員と参議院議員がいるのに、衆議院議員だけを代議士と呼ぶ理由はご理解いただけたでしょうか。
戦前の国民は衆議院議員しか選挙で選ぶことができなかったのに、いまでは、衆議院をチェックする参議院の議員も国民は選挙で選ぶことができます。代議士と国会議員の違いは、敗戦を経て国民の参政権が拡大したことを意味しているのです。