同じ漢字を使っている熟語なのに、漢字の順番を入れ替えるだけで意味が変わってくる言葉は日本語の中に意外に多くあります。
『平和』と『和平』も、そうした漢字の順番によって意味に違いがある言葉です。
ではそれぞれの言葉にはどのような意味があり、どのように使い分ければ良いのでしょうか?
『平和(へいわ)』
- 意味:戦争・紛争・災害などが無く、世の中が平穏な状態にあること
- 使い方:平和主義・恒久平和
『平和』とは、人間の生命や生活などが脅かされる状況から解放され、安心して暮らすことができる状態にあることを言います。
ポイントは、そのような「状態」を指す言葉であるという点です。「状態」は固定化された状況を指すため、日本語の文法的には形容動詞の連体形である「~な」という形を作ることができます。
つまり「平和な地域」のように、ある名詞に付いてその名詞の現在の状況を指す修飾語として使用されるパターンがあるのに対し、「平和宣言」のように、「宣言」の導く先が平穏無事な状態であるという結果的な状況を指すパターンの2種類があります。
どちらにしても、安心・安寧の状況に「固定化された状態」を示す言葉であるという点に注意しておきましょう。
『和平(わへい)』
- 意味:悪い状況から平和な状況になること、または平和な状態にすること
- 使い方:和平交渉・和平運動
『和平』とは、争っている国や人が仲直りすることによって平和な状態になることを意味します。現代社会においては主に、武力による紛争地域や戦争状態において、それを終息させるための方策に使用される場合が大半です。
こちらのポイントは、平和な状態に「なる」という状態の変化を伴う言葉であるという点です。日本語においては、結果的に至った状態を指す言葉を、「~な」という助詞を付加することで形容動詞化することは一般的には行いません。
従って、『平和』の際に見られた2つのパターンのうち、「和平工作」のように名詞の結果的な状況を指すパターンでは使用することができますが、「和平な社会」のように名詞の現在の状況を指すパターンとして使用することはほとんどありません。
『平和』と『和平』の使い分けの例
全く同じ漢字を使っている『平和』と『和平』ですが、その意味には違いがあることがわかったことでしょう。その違いを把握して明確に使い分けなければ、かなりおかしな意味で捉えられてしまうこともあります。
『平和な家庭』と『和平な家庭』
- 平和な家庭・・・平穏に暮らしている家族
- 和平な家庭・・・喧嘩をしていた状態から話し合いなどで仲直りした家族
『和平な家庭』と言うと、言外に「以前は喧嘩してましたよ」というマイナスなニュアンスを含むため、家庭の安寧な状態を指す言葉としては適当ではありません。そのため、こうした言葉はまず日本語では使用しません。
しかし、場合によっては、平和と和平を両方使っても問題無い言葉というものもあります。
『平和条約』と『和平条約』
- 平和条約・・・平和な状態を維持するために戦争状態に無い国家間で結ばれる条約
- 和平条約・・・平和な状態にするために戦争をしている国家間で結ばれる条約
双方とも日本語としては正しいですが、平和な状態への変化もしくは維持、戦争を行っているのかいないのかといった用途の違いがあるため、状況に応じて適切に使用する必要があります。
まとめ
以上、『平和』と『和平』の意味の違いと使い分け方について解説してきました。
- 『平和』・・・固定化された安寧な状態
- 『和平』・・・安寧な状況への状態変化
この違いをしっかりと認識して適切に使用しなければ、あらぬ誤解を招いたり、日本語として成立しない場合もあるため注意しなければなりません。
日本語にはこの他にも『接近』と『近接』や『異変』と『変異』のように、漢字の順番が入れ替わるだけで意味が変わってくる単語が多くあります。
そうした言葉の中でも『平和』と『和平』は、これから世界のグローバル化が進んで、人類が手と手を取り合って生きていく社会を実現するために絶対に必要な言葉です。
少しでもそうした社会に対して寄与していくに当たって、まずはそれぞれの意味を正しく把握し、状況に応じて適切に使い分けていけるようにしておきましょう。