心が痛んでいるときの気持ちを表したいときによく使う言葉として”かなしい”があります。この言葉は漢字で書くと『悲しい』とも『哀しい』とも書けるでしょう。この二つの違いは微妙なものですが、使い分けをすることができます。
『悲しい』
- 意味:心が痛む思いがあって泣いてしまいたくなる気持ち。
- 使い方:大切にしていた花が枯れてしまって悲しい。
『悲しい』は「心が痛んで泣きたくなるような気持ち」を示す表現です。
常用漢字になっているため、『哀しい』を置き換えて使うことができる同義語ですが、当てられている漢字が違うことからニュアンスには違いがあります。
「悲」はもともとは何かを「しかねる」という意味があるため、力が及ばなかったという意味合いがあるのが特徴です。心が苦しいと感じるような気持ちを抑えきれなくなった様子を指すと解釈できるでしょう。また、「悲」は「非ず」と「心」からできていると考えることもできます。この点から解釈すると、心が張り裂けるような気持ちになってしまって、本来あるべきような心境ではなくなってしまったという意味を持つと言えるでしょう。
心や胸が裂かれてしまうような切ない気持ちを表すのに用いるのが本来の意味です。その切なさが募ってしまったために感情が制御できなくなって泣く状態につながることもあります。
『哀しい』
- 意味:強く心が痛む状況になって思わずむせび泣いてしまうような気持ち。
- 使い方:自分を大事にしてくれた祖母が亡くなって哀しい。
『哀しい』は「心が強く痛んでむせび泣きたくなるような気持ち」を表します。
「哀」は常用漢字ではないため、公用文では『悲しい』に置き換えて使用しなければなりません。しかし、厳密にはニュアンスに違いがあって使い分けることが大切です。「哀」は「あわれ」とも読み、「かわいそう」という意味や心を強く打つ衝動を意味を持っています。そのため、『悲しい』を使うときよりも強く心の痛みを感じているときに用いるのが適切です。
一方、「哀」の漢字は「口」を「衣で被せて覆う」という形で構成されています。この動作を考えてみると、つらく苦しい思いを胸の中に抑え込みながらもむせび泣いてしまう様子であると言えるでしょう。そのため、胸が詰まってしまうようなつらい状況になってしまい、思わず涙が出てきてどうしようもない状況になってしまうことを指す表現として用いるのが適切なのです。
『悲しい』と『哀しい』の使い分け例
『悲しい』と『哀しい』のニュアンスの違いがわかったら、うまく使い分けができるように例を見ておくことが肝心です。
「犬が怪我をしているのを見て悲しい」というときには、犬が傷を追ってしまっているのを発見して胸が裂かれるような気持ちを抱いたという意味になります。もともと犬が好きで、道端で見つけた犬が怪我をしていると気づいたという状況が想像できるでしょう。どうしてこんな怪我をしてしまったのだろうといたたまれない気持ちになって思わず涙してしまいたいと感じている様子を伝えられる表現です。
一方、「犬が怪我をしているのを見て哀しい」という場合には状況が少し変わり、その犬が本人にとって特別な関係があったのではないかということを示唆します。怪我をしている姿を見て思わずむせび泣いてしまいたくなるほどに胸が詰まってしまう状況になっているからです。それほど強い心の痛みを感じている場合に容易に想像できるのは、自分の飼っていたり、幼少の頃から一緒に遊んできたりした犬という場合でしょう。そういった含みが生まれるのが『哀しい』という表現です。
まとめ
『悲しい』と『哀しい』は心の痛みで泣きたくなるような気持ちを表します。ただし、ニュアンスとして『悲しい』は心が引き裂かれるような切なさを、『哀しい』は胸が詰まるような苦しさを含んでいることを理解しておくと良いでしょう。